教育事務の持つ力の大きさ
学校とは、子どもの学びと成長を支援し、教職員や保護者、地域住民も学び、絆が生まれる場です。学校は国民みんなの力で運営され、子どもを中心としてみんな
に開かれ、子どもの学びと成長を通じて未来を創造する場であるという意味で公共的使命を持っています。
学校の中核的業務は授業です。授業は、教師による働きかけに呼応した子どもの学びによって成立するという意味で、直接子どもと向き合う教師の在り様は授業の成否にとって大きな力を持つことは確かです。しかし、授業は一人ひとりの教師の力だけで成立しているわけではありません。一つの授業は、例えば、教育課程を調整する教務主任の働きや地域住民との連携を担当する副校長・教頭の働き、また、予算を確保し適切に予算を執行する学校事務職員の働きや学年単位で授業を調整する学年主任の働きなどの、多くの教職員の働きが合力(ごうりき)となって成立しています。
ここでは、授業など直接子どもと向き合う活動以外の仕事を、「教育事務」(注)と呼ぶこととします。教育事務は、子どもの安全確保や授業の質の向上に影響を持っています。しかし、日本においては、これまで、この教育事務に対する研究は十分に蓄積されてきませんでした。英国など、学校財務という裏付けを有した学校の自主性・自律性が強化されている国では、分権化の流れとともに教育事務に関する関心が高まり、それを担う事務長の国家的な資格制度も整備されるに至っています。もちろん、国によって、教育事務の遂行の在り方は異なり、他の国の動きを直ちにわが国に当てはめるべきでないことは確かです。しかし、長い目で見れば、子育てや教育に最も近い学校(または学校群)に自主性が与えられ、自律性を高めることが必要であると考えられます。こうした長期的趨勢を前提とすれば、教育事務の研究の推進とその担い手の資質・能力の向上支援が不可欠です。こうした意味で、教育事務は今後、ますます脚光を浴びる研究分野になることは確かです。
学校事務職員と副校長・教頭、教育委員会職員の仕事の研究
わが国において、これまで教育事務を中心的に担ってきたのは、学校事務職員と副校長・教頭です。しかし、これらの職が学校教育に与えている大きな力はこれまで十分に探究されてきませんでした。副校長・教頭に関して言えば、学校に対する多様な期待や批判が高まる中で、教育事務を含めて包括的に校長を補佐する副校長・教頭の多忙化が進行し、地域によっては志望者が減少しています。学校事務職員について言えば、地方における教職員配置の自由度の高まりに伴い、学校事務職員の在り方は新しい危機に直面しています。また、今日、学校事務職員は世代交代の時期に差し掛かっています。ベテラン学校事務職員が自らの経験を整理し、若手の学校事務職員が多様な知に出会い、広い視野でキャリアを展望できる場が求められています。 また、教育委員会職員も教育事務の担い手です。近年では、教育委員会職員の専門性の向上に対する期待も高まっています。教育行政機関で行われる事務と学校で行われる事
務はつながりを持っており、今日、各地で両者の事務の再設計が進められています。 こうした実態のもとで、学校事務職員と副校長・教頭、教育委員会職員の仕事や成長の現状、そして今後の日本の学校像を視野に入れた仕事の再設計の在り方、資質・能力を向上させる仕組み等を研究することは、彼らの誇りと力を高め、日本の公教育の質の向上に寄与することに通じます。さらに、近い将来的には、研究知の蓄積によって、科学的根拠を有した教育事務の担い手を育成するプログラムの開発も可能となります。
日本教育事務学会の設立を
以上のように、教育事務という働きや領域が存在するということ、学校の自主性・自律性が強化される上では教育事務の強化が求められるということ、日本で教育事務を担っている学校事務職員と副校長・教頭、教育委員会職員が新たな危機的状況に置かれていること、彼らが経験的知識を言語化し、若
手が豊かなキャリア展望を持てるような場が求められていること、世界的に教育事務という研究分野が進展してきていること、などを踏まえれば、日本にも教育事務を研究対象とした学会が是非とも必要です。
以上の理由によって、ここに、豊かな教育を実現するための条件整備の在り方を研究する「日本教育事務学会」の設立を呼びかける次第です。 教育事務の持つ力に関心を有し、自らの有する知(研究知、実践知、行政知、マスコミ知など)を自由に交流し、新しい教育事務に関する研究知を生み出し、新しい教育事務を創造しようとする意欲を有する方々に参加を広く呼び掛けます。
(注)教育事務は、大きく区分すれば、教育活動を調整する教務事務(School Instructional management)と学校全体の戦略を立案したり、教材を整備したりといった管理事務(School Business Management)に区分されます。管理事務の領域としては、例えば、①戦略づくり、②危機管理、③財務管理、④人的資源管理、⑤施設管理、⑥庶務管理、⑦渉外・マーケットなどがあります。こうした管理事務が適切に執行されることが教育活動の質を高めるのです