令和元年9月7日(土)に、日本教育事務学会近畿ブロック地域研究集会イン大阪を大阪市において開催しました。当日は、近畿各県の学校事務職員を中心に全国から87名の方々に参加いただきました。

本研究集会では、「教育協働の実践研究 ~大阪の教育協働の今~」をテーマに、学校現場や教育行政を知る様々な立場の方にシンポジストとしてお招きしました。各立場からの実践報告や意見交換を通して「教育協働」について、緊張感ある熱い議論を行い、研究集会を成功裏に終えることができました。

午前の部では、まず、大天真由美地域総括理事より日本教育事務学会の活動紹介を行い、続いてシンポジウムが始まりました。教育協働の実践報告として、コーディネーターの福田康宏(豊中市立第十二中学校主幹)様の進行のもと、シンポジストの吉原孝(大阪教育大学教育支援実践ルーム教育協働コーディネーター)様、中務高俊(大阪市立夕陽丘中学校校長)様、野川孝三(教育文化総合研究所専務理事)様、花井麻理(豊中市立熊野田小学校主査)様の4名の報告が行われました。

中務様からは、「子ども達は様々な経験から学び成長していくので、できるだけ多くの経験をさせる必要がある。そのためには教員だけでなく多くの人が教育に関わっていくことが大切である。教育協働とは学校の内外を問わず、様々な人が『子どものため』という思いを共有し、協力して教育活動に取り組むことである。」とお話しいただき、教育協働の実践事例として、現在勤務されている夕陽丘中学校で行っている元気アップ地域本部事業の取り組み内容や、スクールサポートスタッフの活動内容について報告いただきました。また、事務職員に期待することとして、「事務職員だからこそ気付くこと、特に財務や予算について、学校の教育活動の改善につながることを積極的に発言や提案をしてほしい。」と強く訴えられました。

吉原様からは、大阪教育大学の教養学部が平成29年度に学部改組してできた教育協働学科の概要についてお話があり、「教育協働学科では、多様性理解、協働力、専門的知識・技能などを身につけていくことにより、学生が社会に出た後、学校や地域に関わるときに、これらのスキルを身につけていることでスムーズに様々な人や組織とコラボレーションして活躍していけると認識し、このようなスキルは今後さらに大切になっていくと考えている。」と説明されました。また、教育協働学科で行われているサービスラーニング(体験学習)の教育コラボレーション演習について、具体的な活動内容や受け入れ先での学生の体験談などを披露しながら、教育協働コーディネーターの仕事の内容を報告いただきました。

野川様からは学校事務の近未来展望ということで、「小学校による教科担任制の導入や小中連携がさらに進んでいく等、学校の在り方が今後大きく変わってこようとしている中で、学校事務も共同学校事務室のような協働して複数校を担っていくという形が増えていく。これからの学校事務職員は、受動的・定型的な仕事から、判断、調整、提案、情報発信など能動的な仕事が重要となっていくとともに、学校および教職員の中の『ハブ機能』としての役割が求められてくる。」とお話しいただきました。

花井様からは、所属校における保護者負担費の未納対応と不登校支援との連携の実践として、子どもが不登校気味となった家庭に対して、事務職員からその家庭との未納対応時の記録を教職員と共有していくとともに、スクールソーシャルワーカーとのケース会議にも参加して、様々な視点を共有して一つのアセスメント(客観的な評価)を導き出していった実践について報告いただきました。その経験から、「保護者負担費課題は、福祉と教育の結節点にある課題であり、子どもの貧困対策について、福祉との連携を進めていくことができると考えている。」と力説されました。そして、「協働には、それぞれの職が持つ『固有の視点』が必要であり、学校事務職員には半分行政職、半分教育職というアイデンティティーがあり、そこからくる視点が学校事務職員の固有の視点であり、教育的ニーズと制度の間で折り合いを模索したり、学校と行政をつなぐ役割ができたり、教育の自律性を担保して制度設計に関与していくことができると考えている。」と主張されました。

午後の部では、まず、川崎医療福祉大学助教の藤井瞳先生による「論文作成講座」を行いました。日本教育事務学会の年報の執筆について、特に実践レポートの執筆活動を行うにあたって「テーマの設定」「論構成」「データの収集」という3つのポイントについて解説されました。「テーマの設定」では、「テーマは日常業務の中に無数に存在しており、問題意識や困り感等を、まず口語から文章化していくことが大事であり、事例や実践の具体的内容がわかるキーワードを2~3個用いてタイトルを考えていくようにしていく。次に、『論構成』であるアウトラインの構築では、用いる材料と書く順序を考えていくことが必要であり、さらに読み手に分かりやすいということが大切となる。序論では論ずる範囲や分野を明確にして限定し、本論ではその根拠を示すことが大事であり、結論では序論で示した問いに対する答えを述べていく。最後に『データの収集』では、実践していく上で、日常考えている問題や事実を書き出したり、可能であれば数値化や図示、フローチャートや概念図にしたり、関係者からの証言を得るなどを行っていくことが有効である。」と講義いただきました。また、留意事項として、研究倫理や執筆要綱の尊守、学会発表の機会の利用なども説明いただきました。

続いてシンポジウムの意見交流として、午前に引き続きコーディネーターの福田様の進行のもと、「教育協働に対応する教育事務とは」「教育事務における学校事務職員、教育行政職員の役割」「総務・財務等に通じる専門職の具体的職務内容は」という3つのテーマに沿って、4名のシンポジストによる意見交流を行いました。各シンポジストからは、それぞれの立場から多くの意見や提言を出していただきました。出された意見の一部として、「学校財務の分野において、教育委員会への予算要求や学校の教育内容や子どもの状況をしっかり把握した上で予算の提案をしていくなど、今までやっていた仕事を深めていくことが大事である。」「学校外での協働にむけて、その仕組みが整っていない部分もあるので議論も大切だが、まず自ら動いてみることも大事となってくる。」「自分ができる範囲を少しずつ広げていく努力を行っていく。学校事務職員として仕事の質を高めていくことが重要であり、事務職員として意見やアドバイスができるように仕組みや制度をしっかりと知ることが重要である。」などがありました。

午後の部の後半では、シンポジウムの内容をもとに、参加者全員によるグループワークを行いました。グループワークでは意見交流のテーマとして、「教育協働の推進に必要な職務上の制度、条件整備とは」「事務職員が専門性を発揮するために必要な研修や養成制度とは」という2つのテーマを設定し、各グループで参加者の地域の実情などもふまえて、活発な意見交流が行われました。グループワークの中で出された意見として、「共同実施を活用して、管理職や教育委員会に事務職員の役割について理解を得ていく必要がある。」「事務職員の役割をアピールしつつ、必要な研修や制度構築を図っていくことが重要となる。」「教育委員会に企画提案をしつつ、ベテランも若手も力をつけていける研修内容を考えていく必要がある。」など、前向きで積極的な意見が多く出されました。

研究集会終了後は情報交換会を開催しました。情報交換会にも多数の皆様の参加を得て、各道府県や各校の実情や課題等も交流し、楽しさの中にも学びのある情報交換会となりました。

本研究集会の実施に当たり、研究集会にご参加いただきました皆様、並びに、準備等を含め研究集会を盛会に導いていただいた学会の本部役員と実行委員の皆様に心より感謝申しあげます。

実行委員長 四牟田修三(地域担当理事)

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